COLUMN 2021.09.11
HUMANTURE
HUMANとFEATUREを掛け合わした造語”HUMANTURE”
兎にも角にも人に焦点を当てて、その人から湧き出た情報をお伝えします。
きっとあなたもその人が好きになる。
VOL.1
深野晃正 −萬園−
都内で唯一”つりしのぶ”を専業にしている萬園。
本物の”つりしのぶ”を作っている深野晃正さんは江戸川区指定無形文化財にも選ばれた。
そんな深野さんはいつも色々な事をべらんめぇ口調でまるで落語のような語り口で教えてくれる。
最盛期には1シーズン1万個
萬園は明治34年10月17日生まれの先代が昭和10年に始めた。
当時は仲買人や小売人に買ってもらっていたので、井桁や霞など単純な形のものを2人で1シーズンに約1万個作っていたと言う。
その頃はリヤカーに風鈴を付けたつりしのぶを吊るして、売り歩いている人をよく目にしたそうだ。
また、自分達でも祭りなどで300〜500個は売っていたと言う。
中でも祭りの売上金を元締のヤクザから徴収する話は最高なので是非聞きにいってもらいたいものである。
原材料不足
しのぶは山深い崖の岩肌にくっついていることが多い。
そして山に入る絶好の季節には何しろ虫が多くマムシも出る。
そんな困難な状況下で尚且つそこの山のことを熟知している必要がある為、取り手は少なく年寄りになっていきより年々少なくなっていっている。
しのぶ自体はたくさん存在はしているが、取り手がいない為、しのぶが不足している。
とゆうなんとも勿体ない悪循環が生まれてしまっている。
そんなこともあってか、ここ最近デパートやホームセンターなどではよく偽物のつりしのぶが売られているのを目にする。
苔の上にしのぶを1.2本チョロチョロっとのせてネットを被せているやつである。
芯は発泡スチロールで出来ているのでもちろん何年もつかは疑わしい。
本物の”つりしのぶ”
4畳半の仕事場には、どこか可愛らしい見た目の反面なんとも合理的な手作りの道具達がいる。
峠の釜飯の器も酒林とゆう深野さん考案の玉型を作るときに使う立派な道具である。
道具がなんであれ、作業場がどう見えようと、”恥ずかしいことなんて何もないよ。ボロ隠しなんてしない。”と言いながら包み隠さず見せてくれる。
それはできたものを見れば分かるでしょうと言わんばかりの自信の現れのようにも思えた。
それを物語るかのように数々の賞状が飾られていた。
ただ、さすがにちょっと煩雑に見える作業場には”今はシーズンオフだから”とちょっと照れていた。
惚れてくれないと
最後にしのぶの良いところはどこかと聞くと、"丈夫で肥料が要らない。肥料がいらないから虫もつかない。"とゆう一周回ってご飯が1番美味い的ななんとも達観した答えが返ってきた。
ただ、物づくりに対しては”やっぱり惚れてくれないとみんな買ってくれないよ”と言う。
来年もまた惚れ惚れするつりしのぶ達が萬円の軒先に並ぶ。
誰に対してもフラットで"いつも来てくれてありがとう。また来てね。"と言う深野さん。
みなさんも萬園に一度訪れてみて欲しい。
きっと深野さんに惚れられずにはいられないだろう。